読む台湾茶

水道水VSペットボトル

2022/11/10 更新

台湾茶はペットボトルの水で淹れるべきですか?

よくいただく質問です。台湾茶は水にこだわらないと飲めないと思っている人は、案外多いようです。

でも、わざわざペットボトルの水を使うメリットはあるのでしょうか?検証してみましょう。

ペットボトルの水

台湾茶で使われるペットボトルの水といえば軟水です。お茶やコーヒーには軟水を使いましょうといった企業のキャッチコピーもよく目にしますね。

実際、硬水を使うケースはまれですので、今回はペットボトルの水=軟水とします。

軟水とは硬度60mg/L以下の水を指します。ペットボトル派の人たちが好んで使う水は30mg/Lあたりが多いようです。

軟水は口当たりがまろやかで、味わいに透明感があります。のどをすっと通過して体内に浸透していく柔らかい水です。

日本の水道水

実は、日本の水道水もほどんどが軟水に分類されます。店主が住んでいる地域では、水道水の硬度は公表値47mg/L。これはごく平均的な水道水の硬度です。

ただし水道水の硬度は季節によって変動します。地域差も大きく、沖縄や一部地域では硬度100mg/Lに迫ります。

一般に、水道水はペットボトルの水よりも硬度が高いです。味わいは水道水のほうがキリッと引き締まっています。また水道水はペットボトルの水よりも重たい質感で、飲みごたえを感じます。

おいしい水=おいしいお茶?

ペットボトルのラベルにはよく「おいしい水」と書かれています。でも、感じ方は人それぞれですから、絶対にペットボトルの水のほうがおいしいとは言い切れません。

一つ言えることは、ペットボトルの水は温度によって印象がだいぶ異なります。

店主の個人的な意見でいえば、よく冷えたペットボトルの水は好きです。しかし、常温であったり生ぬるい状態のペットボトルの水はあまり好きではありません。

ペットボトルの水は口当たりが繊細です。特に冷えた状態であれば、水分を欲した身体によくなじむ感覚を覚えます。はじめの一口二口はとても爽快で美味しく感じます。

ところが、柔らかな質感が何口も続くうちに、飲み疲れてしまうのです。

一方、水道水は温度変化による味わいの差は小さいように感じます。蛇口から出したての水は適度にひんやりして美味しいですし、ほどよくキレがあります。常温に戻ったらからといって生臭さが際立ってくることもありません。

お茶は基本的に温かい温度帯で口に含みます。そうなれば、ペットボトルと水道水を飲み頃の温度で味を比べても意味がありません。

つまり、おいしい水で淹れれば美味しいお茶ができる、とは限らないのです。

以上を踏まえて、水道水とペットボトルの水で台湾茶を淹れ比べてみます。

実験

使用する茶葉:梅山金萱茶 22年春茶
左:水道水(47mg/L) 右:ペットボトルの水(30mg/L)

テイスティング結果

ペットボトルの水で淹れたお茶は、茶湯が明るくきれいです。口当たりがやわらかく、まろやかさも際立ちます。ただ、そのまろやかさゆえに、水道水よりもぽやっとした印象を受けます。

ペットボトルの水は、金萱種が持っている甘さをきれいに引き立ててくれました。液面はつややかで、どっしりした主張があります。

甘さの輪郭は水道水のほうがシャープです。また、後味の引きも水道水のほうがスムースです。ペットボトルは味わいに清潔感があります。ところが、口当たりがゆるいため全体がアンバランスな印象を受けます。

金萱種の甘さのタイプ(系統)は、水によってに差がありました。ペットボトルはジューシーな甘さが優勢で、水道水はメリハリのある熟成感を伴った甘さです。

基本は水道水でよい

店主はお茶を淹れる時はいつも水道水を使っています。店主が住んでいる地域の水道水は真水でも美味しいし、においも気にならないからです。

蛇口から出したて水にはメリットがあります。味が明るく、輪郭が明瞭になることです。後味もシュッと引きが良いので次の1杯が進みやすくなります。

ペットボトルの水で淹れると、お茶は主張が強くなります。それ自体は良いことなのですが、他を受け入れる余地が小さくなってしまう点は押さえておきましょう。

つまり、お茶を単独で楽しむならペットボトルの水、お茶請けとの相乗効果を狙うなら水道水といった使い分けが考えられます。

水選びのステップ

最も大切なのは「水がきれい」であることです。

汚れのないキャンバスが広がっていて、はじめてお茶のポテンシャルは発揮されます。

蛇口から出したての水道水はおいしく飲めますか?まずは確認してみましょう。

次に、硬度を調べます。浄水場ごとの水道水の硬度はネットで公開されています。

そして、店主のテイスティングレポートとご自身の感覚を比べてみましょう。ここでズレが大きいようでしたら、水選びを検討する価値が出てきます。

まろやかさを強調したければ軟水寄りに、逆に味を引き締めたければ硬水寄りの水を使いましょう。

お茶の好みは人それぞれで、正解はありません。お茶の種類や引き出したい味わいを意識して、どの水を使ったら良いかを考えてみましょう。

参考までに、店主のテイスティング方法をご紹介します。といっても極めてシンプルです。白いお椀に茶葉4gをとって、200ccの熱湯を注ぐだけです。テイスティングはお茶の良し悪しを判断するのが目的ですから抽出にテクニックは必要ありません。

水を使い分ける、実用例

① 水出し茶にはペットボトルの水がおすすめ。冷たいお茶はやらわかい質感が伴うと飲み心地がよくなります。軟水は茶葉本来の甘さを引き出してくれます。きれいな水色も長続きします。

② 焙煎茶には水道水がおすすめ。味わいに高低差が出て茶葉の個性を感じやすくなります。水道水を使うと焙煎茶でもお茶がくどくなりにくく、お茶菓子との相乗効果を狙いやすくなります。

③ 春茶の味わいは明るく、香りははじけるような勢い持っています。春茶の個性を立たせたい時は水道水を、やわらかさを強調したい時にはペットボトルの水を使ってみましょう。

④ 朝一番のお茶は、水道水を使ってキレの良い味わいを立たせます。リラックスタイムにはペットボトルの水でやさしい口当たりを楽しみましょう。

台湾と日本では水が違う

台湾のお茶屋さんで教わった淹れ方で同じ味が再現できない。そんな声を時々耳にします。

台湾では茶葉を多めに入れて1-2分蒸らすことが多いでしょうか。日本ではその時間ではたいてい濃くなりすぎてしまいます。40秒からせいぜい1分でしょう。

同じお茶なのに、こんなにも抽出時間に差があるのはなぜでしょう?

理由の一つに、台湾の水道水(飲用水)は日本よりも硬度が高いことが挙げられます。硬度が高いと抽出効率が下がるので、その分長い時間が必要になります。

硬度が高い水でお茶を淹れると味がくっきりします。店主が日本と台湾でテイスティングをしていて感じるのは、台湾にいるときのほうがお茶の個性がつかみやすいことです。

お茶の選定をする際には、日本人が日本の水で使って淹れるシチュエーションをいつも想定しています。

旅行に台湾茶を持っていこう

店主は旅先にも台湾茶を持っていきます。現地の水道水や湧き水でお茶を淹れてみたくなるのです。

最近は多くのホテルの客室にマグカップとケトルが備え付けられています。マグカップにそのまま茶葉を入れてお湯を注ぐだけで台湾茶は楽しめます。

秋は一年で最もお茶が美味しい季節です。気温差がますます大きくなり、空気も乾いてきます。春茶もちょうど飲み頃を迎えています。

台湾茶芸の泡茶三要素(時間・温度・量)に、水選びの要素を加えて、お気に入りのレシピを見つけてください。

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