読む台湾茶
東方美人の新旧飲みくらべ
2019/7/6 更新
青心烏龍へのこだわり
東方美人はどの品種からも作れます。先行する金萱や翠玉などの新品種は、新茶として飲む分には問題ありません。しかし、青心烏龍のしっかりした舌触りとピュアな蜜香はありません。今年も青心烏龍に狙いを定めて、じっと待ちました。
東方美人の魅力は、年単位で深まっていく熟成です。そのためには滋味の強さが何よりも大切です。新品種は生育旺盛ゆえ、茶葉の滋味密度が低くなってしまい、熟成には適しません。そうはいっても、市場ではたしかに低価格の"東方美人風"は重宝されています。新品種のおかげで、東方美人は一定の流通量が担保されているのです。
農家はなぜ新品種を導入するのか?
理由は主に2点あります。
一つ目は摘茶周期の違いです。生育周期が異なる品種を栽培することで、摘茶や製茶の一極集中を避けられます。特に手摘茶は、ベストタイミングで労働力が確保できなければ死活問題です。もう一つはリスク管理の観点から。病気などが発生した際、異なる遺伝子を栽培することで被害を最小限に抑えることができます。
2013年から2019年まで、ずらりと並べてテイスティングしました
- 2019年の新芽は成熟度が高く、白芽の比率は高めです。茶湯は明るく2015年に似ています。
- 2018年の新芽は2017年よりもさらに繊細です。茶湯は2017年の琥珀色に似ています。
- 2019年は新芽の甘さと高発酵の奥ゆかしさが絡み合って、東方美人の滋味を形成しています。
- 今は新茶らしいシャープさが前面に出ており、入口時の甘味もしっかり主張します。
- 中低温に向かうにつれて蜜甜味が顔を覗かせてきます。
- 新茶にしかないクリーンなミント香を堪能したら、常温で熟成させましょう。
- 熟成につれて、厚みのある滋味が甘味へと転化していきます。
- 湯面は丸みを帯びていき、とろっとします。後味の甘さも強まっていきます。
- 2019年は新芽を多く含むため、熟成には時間を要するタイプです。
- 2019年の飲みごろは3~5年先と予想します。
東方美人の熟果香
水蜜桃に評される熟果香は、製茶技術では作り出せません。時間によってのみ醸し出されます。新茶だけでなく熟成過程をも愉しめるのが台湾茶、こと東方美人の魅力です。
今年も理想的なLotを確保できました。あとは皆さんのお手許で、ビンテージワインや年代物のウイスキーの如く、陳味の醸成を見守ってあげてください。良いお茶は、5年後でも10年後でも美味しく召し上がれます。
新旧のみくらべのヒント
旧茶は、時間とともに茶葉の色味が均質化してきます。そして桃のような熟果香が生まれてきます。新茶よりも水色が明るくなると味が飛んだと誤解されがちですが、そうではありません。油膜のような表面張力を見れば誰もが納得。まろ味は格段に強まります。台湾茶を正しく選定できたかどうかは、こうして数年経って分かるのです。
2017年は新茶の余韻を残しつつ、後味には確かなコクが伺えます。2016年は滋味と甘さのふくらみが良く、飲みごろです。2015年はとろっとした円熟味が強まってきました。2013年に至っては、花蜜をすすっている錯覚に陥るほど、別格です。濃密な甘みへの転化と陳味が際立ちます。
高発酵茶の味わいがしっかり出ているのは2016~2018年です。新芽のやさしい甘さを楽しみたい方は2013・2015・2019年を。熟成茶の魅力を感じたい方は2013年と2018年、または2013年と2019年の組み合わせがおすすめです。
最後の1煎を飲んだら・・・
お湯が沸いたら火を止め、一呼吸おいてから淹れてください。甘さを引き出しやすくなります。最後は水を張っておきましょう。翌朝、極上の水出し東方美人が楽しめます。
東方美人は小さな新芽を一つひとつ摘み集めて作ります。熟練の摘茶娘でさえ、一日汗を流しても完成品300g分を摘むのが精一杯。東方美人は、ただでさえ製茶コストの高い台湾茶の中でも最も割に合わないお茶です。市場価格は今年もまた一段値上がりしました。それでも、台湾の土地でしか作り出せない神秘に満ちた東方美人は、世界中から引く手あまた。
どうか来年も良品が確保できますように。