読む台湾茶

中国茶とコーヒー

コーヒーを科学する

最近読んだ本でおすすめは?と聞かれたら、私は迷わず『珈琲大全』(田口護/著、NHK出版)と答えます。

著者は、東京の下町・谷中にある喫茶店カフェバッハの店主。以前からこちらのコーヒーは美味しいと聞いていたので、先日用事ついでに訪れてみました。私はコーヒーも大好きで、毎日のように豆を挽いてペーパードリップで淹れていますが、ここのコーヒーを初めて口にした時は、なんて芳醇な旨みを湛えている一杯なんだと、素直に感動を覚えたものでした。それがきっかけで『珈琲大全』を読んでみたのです。

同書はコーヒーの植物学的生態から始まって、品種、産地別の特徴、焙煎、抽出、カフェレシピまでコーヒー全般の基礎知識が網羅されています。

特に、焙煎のページが、コーヒー初心者にもわかりやすく素晴らしい内容なのです。コーヒーの焙煎なんて聞くと、誰もが「プロの聖域」と思いがちです。さらには、焙煎とは豆を焦がして苦味を引き出すものだという誤解がまかり通っています。

この本を読んで最も驚いた点は、ごく基本的な法則の組み合わせだけで、素人でもまるで数式を解くかのように客観的にコーヒーの「よい・わるい」が理解できるようになるということです。コーヒー学がこんなにも理論立ったものだとは知りませんでした。

中国茶との接点

なぜ私がコーヒーの話をしたか、お分かりですか。

それは、コーヒーも中国茶も農作物であって、呼称こそ異なれど加工、焙煎、抽出の理論には共通点が多いのです。気候の影響、生豆の選び方、焙煎による酸味と苦味のバランスの変化、抽出水温と味の関係・・・

私はまだ、日本で中国茶の焙煎をテーマにした良書に出会っていません。同書の「コーヒー」を「中国茶」と読み替えるだけで、本書は中国茶の焙煎理論を学びたい方の最良の解説書となりうると思います。

未熟な日本の中国茶市場

日本ではここ数年、多くの中国茶関連書籍が出版されてきました。美しい写真を盛り込み各種茗茶をわかりやすく解説し、多くの人々を中国茶の世界に引き込んだことは評価すべき功績でしょう。

その一方で、便乗商法としか思えない出版物や、謎めかしい神話や伝説をいたずらに掘り起こし実体を伴わない付加価値を売り物にする商売姿勢も、業界の一部に見られます。

日本のショップに目をやると、やたらとコツやセンスで語られることが多い茶葉選び。しかし中華圏の商習慣はシビアで、「うまい・まずい」といった個人の好き嫌いに帰着させてしまう客観性に欠く判断しかできないと、どんなに大枚を投じても「よい茶葉」を手にすることはできません。

一つの茶葉に“極品"と“特級"があるとすれば、日本では十中八九、その価格設定は仕入れ値に比例させているだけです。

プロの聖域はいらない

中国茶には、例えば発酵など科学的に解明が進まない変動要因もあってコーヒーより定量化が難しいのは確かです。だからといって、いつまでも「プロの聖域」として位置づけられているようでは、将来的に我々の文化に根付いていかない気がします。

今では中国茶がこんなに広く知られるようになったわけですから、そろそろ次のステップとして、製茶や焙煎を客観的かつ体系的に解説する本が出てきて欲しいなと、ひそかに期待を寄せています。

メールマガジン2004/8/16号より

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