読む台湾茶
旨い老茶が呑みたい
老茶(lao cha)とは、陳年茶(chen nian cha)のことです。日本では陳年茶で呼ばれることが多いようですが台湾の茶商同士では"老茶"が一般的です
買ってはいけない老茶
年1回または数年おきに再焙煎した茶葉を「老茶」として出す茶商がいます。台湾で出会う老茶の9割以上がこのタイプです。各製茶場や茶商から送られてくる届くるサンプルもそうです。見た目にも明らかな強焙煎で、石炭のようにギラギラ黒光りした茶葉も少なくありません。って、、、茶葉が死んでます。
必要以上に火入れを繰り返すと、水分が低くなって陳化(chen hua;酸素と触れ合いと旨みが増すこと)は止まり、滋味成分は流失します。なぜ途中で火を加えるのか、それは元々の茶葉の安定性が悪いからです。どんなに火を入れて、何十年放置してみても「わるい茶葉」が良化することは決してありません。むしろ置けば置くほど劣化が進行します。
台湾ではほとんどの場合が、劣化抑制という後ろ向きな理由で焙煎を繰り返し20年物・30年物といった"年代物"に化けてるのが現状です。要するに、見ための古さを醸し出すための焙煎ですから、売れ残りや質度(zhi du;滋味成分の密度)に乏しい夏茶が好んで使われるのです。
黒々した老茶は素人騙しの粗悪品です。茶葉の劣化を"成熟"という言葉ですり替えてるだけです。皆さんは絶対に買わないでください。
では、本当の老茶とは
毛茶(mao cha)と呼ばれる、製茶して乾燥させただけの未焙煎の茶葉を使用します。それを茶缶など環境の変化を受けにくい容器で放置します。1~2年で茶葉の中心に僅かに残った水分が均質化してくるので、また表面をごく軽く低めの温度で"乾燥"させます。
10年ほどすると枝までもが紅潮した赤みを帯びてきます。その色は、黒ではなく"セピア"です。仕上げは通常の木柵正叢鐵観音のように焙煎します。十分に後発酵しているので、焙煎で茶葉が痛んだり炭化することはありません。
老茶の茶湯には、後発酵によって醸成されたワインレッドを含みます。口当たりは繊細ながらも、味わいは何倍にも増幅した重厚感が感じられます。これこそが老茶の醍醐味、陳味(chen wei)です。
老茶は非常に煎が利きます。安定性が高いので2日目でも変質しません。
このように作り方だけみると、誰でも作れそうな気がするかもしれません。しかし、普通の茶商なら、老茶を作って売ろうなんてまず考えません。
茶葉の保存には「よい茶葉はより美味しく。わるい茶葉はよりわるく」という原則があることは以前にもお話しました。つまり、老茶にできるのは、飲むに惜しいほど良質な茶葉に限られます。数年に一度あるかないかの確率ですが、それでも選び方を間違えると10年後にはスカスカの味になってしまいます。
そんなリスクを背負ってまで正しい老茶を作ろうとする茶師は、台湾じゅう探してもほとんどいないのです。
マイ老茶を作ってみよう
まず、良質な茶葉を用意します。茶葉選びに相当な鑑定眼を必要とすることは先に書きました。品種は、発酵を高めてこそ本領を発揮する台湾の鐵観音がベストでしょう。未焙煎の茶葉がなければ、焙煎したものでも構いません。
清潔な茶缶に入れて常温保存します。毎年1回、60~70℃の低温で3時間位かけて表面の水分を飛ばします。10年もすれば立派な陳味が現れます。最後の1回だけは、少し温度を高めて、時間を長くして香りを立たせます。
最近は卓上焙煎機も売ってるようなので、興味がある方はチャレンジしてみてください。
発酵茶は老いてこそ
発酵度の高い茶葉、例えば東方美人や台湾紅茶なども、時間とともに味わいが面白く変化していきます。先日、久しぶりに東方美人を飲みましたが、琥珀色の水色は明らかに深みを増し、昨年の入荷時よりも美味しく育っていました。
煎茶は確かに「新茶が美味しい」かもしれませんが、発酵茶にはこの原則は当てはまらないのです。正しい仕入れができたかどうかの解答は、時間が経てばこのようにはっきりと自覚できます。
昨年の秋、ある焙煎師が言いました。
烏龍茶は飲料の中で最も難しい学問だ。君はブランドやテクニックに走ることなく、きちんと勉強しなさい。
美味しい老茶を求めて早や2年。当店の仕入れ基準をクリアする老茶にはまだ出会えません。
メルマガ 2005/2/19号より(一部改)