読む台湾茶
茶商のコネクション
長くなりますのでお茶を用意してからお読みください(笑)
雨の日の摘茶
当店の人気商品、佛手・木柵猫空茶区について前号でこう書きました。
木柵でもほとんど目にしない品種で、また今季は運が悪いことに多くの農家が茶摘日に雨に見舞われたため、良品の確保はほぼ絶望的
その後皆さんからもたくさんの反響をいただきました。お気持ちは嬉しいのですが、天気は誰にもコントロールできません。
雨が降ると茶葉内の水分率が高くなってしまい、味わいの薄れたものしかできません。まして佛手は火入れを強く施してこそ持ち味を発揮する品種なので、そんな毛茶(初製茶)を焙煎したところで滋味も香りもスカスカになるだけです。
かといって天気が回復するのを待っていると茶葉は徒長して硬くなってしまい味も香りも立ちません。2~3日晴れが続き、しかもその時に最適な状態に茶芽が生長してないと良いお茶は絶対にできません。どんな名人でもお手上げです。
お茶は「天・地・人」の合作といいますが、実際のところ人が関与できる部分はほんのわずかなのです。私も今季は無理だと思っていましたが、、、なんとかなるもんですねぇ
サンプル自体ない
新茶発売後もずっとリサーチは続けていました。
当店の取引先にも手伝ってもらい、片っ端から茶農を当たってサンプル収集に走りました。しかし前回もお話したように、製茶ピークを過ぎると茶農の手許には売れ残りばかりなのです。1つ2つ当店の基準を満たす毛茶サンプルが残っていても、それはすでに別の優秀な焙煎師の手に渡っていました。他の茶農より数日前に作ったロットとのこと。
がっくり肩を落としていたところ、、、お手伝いいただいた茶商から電話が入りました。
転々とした末、ついに確保
驚くことに、いったんその焙煎師に渡ったロットの完成品を茶農の自家用にと少しだけ戻してもらったのがあって、それがとても良い出来だと言うのです。茶農がちょっとなら分けてもいいと話してるので、サンプルを試してみないかと。こうして入荷が決まったわけです。
もう一度整理します。
茶農 → 茶商A → 茶農 → 茶商B →当店 という流れです。
日本では信じられないかもしれませんが、実は台湾ではこのような融通は珍しくありません。
思い起こせば3年前、同じようなルートで梨山高冷茶を確保したことがありました。ある茶商で私が目をつけてたロットを一気に別の茶商に引き取られてしまった時、「ちょっとだけ分けてやれよ」と元の茶商に戻してもらったのです。
茶農同士、茶商同士の横のつながりは意外に強いのです。もちろんお互いの立ち位置、実力を認め合ってるからこその関係です。久しぶりにコネクションの力を実感しました。
※関連コラム: 茶農 VS 茶商
未熟な日本の台湾茶市場
それに比べて日本の茶商はどうでしょう。
言葉も話せない、お茶の知識もない人がどかどかと茶農家まで押しかけて「買い付ける」のを、果たしてコネクションとか信頼関係と呼べるでしょうか。コンテスト受賞歴があるというだけで、知らない地で勝手に「名人」に仕立てあげられている現状を不快に感じる台湾人も少なくありません。
またそれを逆手にとって、日本人は売れ残りを、しかも喜んで高く買っていくから有り難い存在だと思ってる人もいるようです。長くなるので機会を改めますが、コンテスト茶信仰にも多くの矛盾点があることを知っておかなければいけません。
残念ながら台湾の茶商・茶農は誰もがプロではありません。きちんとお茶を勉強したことのない人は山といます。私もかれこれ10年間お茶に関わる人と色々出会っていると、雑談をしていても相手のお茶に対する姿勢や理解度が見えてきます。
とにかく台湾で本格的にお茶を勉強した人が、今後日本で正しい知識を広めてくれることを期待します。
当店がセールをしない理由
せっかくなのでもう少し。
新茶の便りが聞こえる頃になると、ほとんどのお店で旧茶のセールを始めますね。「セールはいつから?」というお問い合わせも時々いただきますので、ここでお答えしておきます。常連さんはすでにご存知だと思いますが、当店は開店以来、一度も安売りをしたことがありません。
理由は簡単です。お茶は時間とともに「よいお茶はもっとよく、わるいお茶はもっとわるく」なっていく法則はこれまでに何度もご紹介してきました。熟成して一層味わい深く育ってきている、言わば付加価値のついたお茶をなぜ安く売るのでしょうか。要するに、早く売り切ろうとする店は、そもそもよいお茶を選び抜く鑑定眼を持ってないということです。
当店のお客様には熟成した旧茶だけをお求めになる方もたくさんいらっしゃいます。私も1つのロットを1~2年は提供し続けられるようにと仕入れ量を決めています。それでもお茶は一期一会、同じロットの再入荷はできません。お気に入りのロットはお早めにといつも言うのは宣伝ではないのです。
大量仕入れで格安販売?
皆さんも旅行や出張で台湾に行かれる機会があれば、台湾茶をお土産にすることでしょう。でも古いお茶だから安くするとか、たくさん買うと値引きしてくれるお店は、お茶屋さんでなくお土産屋さんだと思ってまず間違いないでしょう。
そもそも台湾茶には定価の概念がありません。凍頂烏龍茶の定価はいくら?と聞かれても答えようがありません。
皆さんからお送りいただいたお茶をテイスティングした限りでは、日本でも割引をちらつかるお店、名人が作ったとされるお茶を売るお店には注意が必要なところもあるようです。
ちなみに当店の全取引先は、卸でも小売でも値段交渉には応じません。電化製品と違って大量に仕入れても安くならないのです。値段は品質で決まります。相手の言い値で買うか買わないか、それだけです。これが「台湾茶業の最大の特徴」なのです。
残念なことに、日本では完全に誤った概念が根付いてしまっています。もちろんこれは全て売り手の責任(戦略?)です。最近はめっきり見かけなくなりましたが、昔は「不二價」(値引きなし)の掛札をわざわざ出している台湾茶商もいました。お店選びのヒントになるかもしれませんね。
育っていくお茶を見極める
話を佛手~木柵猫空茶区に戻します。
今季のロット(09年春茶)も5次火ですが、いつもより火を強めに施しています。また完成後間もないため茶葉の表面と中心の水分循環が完全とは言えない状態です。現在は焼き立てのコーヒーのように少しバランスに欠けた状態です。今はそれとして美味しいのですが、あと2週間もするとぐっと落ち着きが現れると思います。
ここがバイヤーの難しいところなのです。
私がテイスティングする時点では、お茶は必ずしも最高に美味しい状態ではありません。特に中重焙煎の場合は、今美味しいかではなく、これから美味しくなる可能性を秘めているかどうかを見極めます。かといって熟成させて美味しくなったお茶を後になってから仕入れることは不可能です。良く育っていくであろうロットはその時にしか入手できません。
そこで重要になるのが「茶質」という判断基準です。これは何度もお話していますので、こちらで復習しておきましょう。
メルマガ 2009/6/13号より