読む台湾茶

新茶と旧茶 どう選ぶ?

2020/3/25 更新

あなたは新茶が好きですか?旧茶が好きですか?

台湾茶の通とかマニアとか呼ばれる人達の中には、旧茶を好んで飲む人が多くいます。店主も昔は新茶を追いかけては漁るように飲んでいました。でも今では、その時々に応じて、新茶と旧茶を使い分けています。

熱狂的な新茶ファンに、なぜ旧茶を避けるのかを質問したことがあります。驚くことに返事はみな同じ「旧茶は香りがない」というものでした。

えっ、マニアはわざわざ香りがないお茶を愛飲している??

このコラムでは旧茶について徹底解説します。そして、新茶と旧茶の飲みくらべを提案します。これまで何となしに新茶を選んできた方にとって、旧茶の世界は常識がひっくり返るほどの衝撃です。最後までお付き合いください。

新茶とは?旧茶とは?

台湾茶には春茶・冬茶という年2回のベストシーズンがあります。現在からさかのぼって最新のシーズンのお茶を新茶、それ以前に作られたお茶を旧茶と呼びます。2020年3月時点でいえば、新茶は2019年冬茶です。2019年春茶、2018年冬茶、2018年春茶などは全て旧茶になります。

新茶にはない、旧茶だけが持っている3つの特徴

新茶には新茶の、旧茶には旧茶の特徴があります。ここでは新茶ファンが絶対にうらやむ、新茶にはない、旧茶だけが持っている魅力をご紹介します。

1.香りに気品がある

新茶の魅力でまず筆頭に挙がるのは、フレッシュな香りです。みずみずしく、メリハリがあって、直接的に鼻に飛び込んできます。柑橘類の皮を絞った時にエッセンスがはじけるように飛び出してくるイメージです。

一方、旧茶の香りにはツヤ感があります。湯気の密度が高く、ゆらりゆらり渦を巻きながらゆっくりと湧き上がってきます。旧茶の香りは、新茶のように勢いよくは発散してきません。香りはどこにあるかと言うと、茶湯の味わいの中にたくさん閉じ込められているのです。口に含むことで香りが開きはじめ、のどから鼻へと香りが抜けていくのが旧茶の特徴です。

2.後発酵のやさしい味わい

製茶時の酸化発酵(前発酵)に対して、保存によって旨みが充実していくプロセスを後発酵と呼びます。茶葉が袋の中のわずかな空気と触れることで、ゆっくりと後発酵が進みます。フレッシュさの角がとれていき、まろやかな風合いと豊かなコクが醸し出されます。旧茶はのどを心地よく潤してくれて、もう一杯、もう一杯と後を引きます。後発酵の風味は製茶技術で作り出すことはできません。

3.だらだら飲める

どんなに良質な新茶であっても、できたてのうちは若干の刺激性があります。舌ざわりの柔らかさという点では、旧茶は新茶に勝ります。台湾茶を飲むことが長年習慣化している人は、新茶のわずかな刺激を無意識のうちに感じ取って、旧茶に手が伸びているのです。旧茶は新茶よりも安定性が高いため抽出技術を問いません。しかも煎が長続きします。だらだら飲みにぴったりなのです。

次項では新茶と旧茶の飲みくらべをご紹介します。ここまでの要点を整理しておきましょう。

新茶と旧茶の飲みくらべ おすすめ5選

店主おすすめの組み合わせを、応用しやすいようタイプ別にご紹介します。

① 焙煎-木柵正欉鐵観音 19年冬茶と16年冬茶

焙煎がきいた中火・重火の台湾茶は、熟成向きの典型例です。焙煎によって旨味成分が凝縮しており、熟成味が育ちやすくなります。はっきりした個性が現れるまでには通常1年以上かかります。焙煎が強い茶葉ほど水分率が低くなるため、熟成には長い時間を要します。たとえば重火の木柵正欉鐵観音であれば、観音韻と呼ばれる鉄観音種の風合いが強まるのには2~3年かかります。

② 発酵-東方美人 2019年Lotと2013年Lot

発酵度が高い台湾茶も熟成に向きです。中でも東方美人は、新旧の違いが最も理解しやすいお茶です。6年間熟成させた東方美人の茶湯はワインレッドの色味を呈します。茶湯は柔らかさを増し、新茶とは別格の奥ゆかしさが感じられます。

下の動画にご注目ください。2019年Lot(左)と2013年Lot(右)を並べて、茶盤を揺らしてみました。右側の方がとろっとしています。

東方美人2019年と2013年
③ 高山茶-阿里山高山茶~雲香 2019年冬茶と2017年冬茶

高山茶は熟成のイメージと結びつかないかもしれません。でもほどよく熟成させてあげると、高山茶の清涼感あふれる味わいに厚みが加わって、のどごしがマイルドになります。新茶の時には緑がかっていた茶湯は、熟成のほどに山吹色を帯びてきます。

高山茶区の阿里山と、中海抜の凍頂烏龍茶~清香の飲みくらべもお楽しみください。凍頂烏龍茶のしっかりした旨みが熟成によって凝縮し、栗のようなほっこり感が生まれます。

下の画像は阿里山高山茶~雲香の19年冬茶(左)と17年冬茶(右)です。右側は茶葉全体が紅潮しているのが分かりますか?茶葉の色味を観察する時は、遠目から全体を眺めてください。

④ 新品種-樟樹湖高山金萱茶 19年春茶と16年冬茶

四季春、金萱、翠玉などの個性豊かな新品種もお試しください。中でもおすすめは樟樹湖高山金萱茶阿里山高山金萱茶といった高山金萱茶です。高山茶の回甘(→詳しく)と金萱の自然由来の甘さの融合はたいへん魅力的です。新品種はどうも物足りない印象を持つ人もいますが、軽い熟成によって一口でも大きな充足感が得られるようになります。

⑤ 花茶-台湾ジャスミン茶 2020-21年Lotと2019-20年Lot

ジャスミン茶は香りが命ですか?そんなことはありません。新茶はフレッシュな花の香りがまっすぐ鼻に届きます。ピュアな味わいも新茶ならではの魅力です。一方、旧茶はしっとりした口当たりが魅力です。ジャスミンの香りはお茶の味わいよりもワンテンポ遅れてやってきて、口の奥から鼻へとブーケのように湧き上がってきます。旧茶は新茶よりも甘みが濃く、余韻が長く続きます。

旧茶をもっと楽しむヒント集

飲みくらべのイメージはできあがりましたか。では実際に手を動かしてみましょう。旧茶の理解を深めるためのヒントを5つ挙げておきます。

1.新茶と旧茶を同時に淹れる

新茶ばかり飲んでいても、旧茶ばかり飲んでいても、両者の魅力には気づきにくいものです。はじめだけでもいいので、新茶と旧茶と同時に淹れてみることをおすすめします。新茶のほうが絶対に美味しいと思っていても、公平に比較してみると、実は旧茶が好きだったというケースはよくあります。

2.高めの水温で魅力を引き出す

旧茶は新茶よりも安定度が高く、ゆっくり茶葉が開きます。そのため、心持ち高温のお湯を使うことで美味しさを引き出しやすくなります。旧茶は新茶よりも回数が多く楽しめます。新茶の抽出は先行逃げ切り型で、旧茶は好位追走と覚えておきましょう。

3.旧茶は冷めかけが美味しい

旧茶の香りは熱々のうちは飛び出すように発散しますが、温度が下がるにつれて茶湯の一滴一滴に包み込まれていきます。日中に大きく花びらを開いたチューリップが、陽が傾いてくるとゆっくり口を閉じていくイメージです。旧茶は冷めるほどに茶湯の密度が高まり、味が深まります。また舌ざわりがとろっとしてきます。

4.新茶と旧茶、どっちが高級?

新茶には新茶にしかない個性が、旧茶には旧茶にしかない個性があります。どちらに魅力を感じるかは、飲む人次第です。台湾ではよく「春茶は冬に飲め、冬茶は春に飲め」と言います。台湾人はいくらか熟成したお茶を好む人が多いです。品質面では、元々の茶葉の品質がたいへん重要になります。時間とともに良いお茶はもっと良く、わるいお茶はもっとわるくなっていきます。

5.茶葉の保管方法は?

未開封のまま直射日光を避けて常温保存してください。文山包種茶のように表面積が大きいお茶は6ヶ月、球型だと1年くらいから旧茶の風合いが出てきます。2袋買って1袋はすぐに開封、もう1袋はそのまま保存しておくとよいでしょう。忘れた頃に開封するくらいの気でも大丈夫です。

台湾茶の楽しみの半分は新茶に、もう半分は旧茶に

新茶と旧茶の飲みくらべに興味を持っていただけましたか。朝と晩、家とオフィス、集中したい時とリラックスしたい時など。どのようなシチューションが新茶に向いているか、もしくは旧茶に向いているかを考えて実践してみましょう。

新茶と旧茶の使い分けがマスターできると、台湾茶のレパートリーが飛躍的に広がります。そして、あなたも上級者の仲間入りです。

人気コラム・読む台湾茶