読む台湾茶

何秒で淹れますか?

2019/8/3 更新

何秒で淹れるべきですか?

一番多くいただくお問い合わせです。

私は今は鑑定の話ばかりしていますが、元々は中国茶道から台湾茶の世界に飛び込みました。ですから、皆さんが何秒で淹れるかを知りたい気持ちはよく分かります。

でも現実的な問題があります。私は皆さんが使ってる茶壷の大きさや質感、使い込み具合を完全に把握することはできません。気温、水質、やかんの素材なども異なります。メールで最適な淹れ方を伝えるのは大変困難です。

何よりも、秒数を示すことによって、淹れ手の柔軟な思考を阻害することを懸念していました。だから「何秒で淹れましょう」という提案は、私からはあえて避けてきました。それでも秒数を知りたいという要望は多いため、半ばしぶしぶ、目安の抽出時間を書くことにしたのです。

結果は、やっぱり私にアドバイスを求める声は減りませんでした。時間を決めればお茶が美味しくなるわけではないのです。

そこで今回は、抽出段階を知ることができる観察のポイントをご紹介します。

茶壷が呼吸する?

  • 茶壷をしっかり温めます。
  • 茶葉を入れ、熱湯を注いでふたをします。
  • 茶壺の上から熱湯をかけます。
  • 嘴(くちばし)を観察します。
  • 嘴のお湯がぷっくりと膨れ、溢れ出そうになります。
  • しばらくすると、逆方向にきゅーっと吸い込まれます。
嘴(先端の部分)を観察してみます

お湯が溢れ出ようとするタイミングは、茶葉が中でゆっくり広がろうとしている状態にあります。広がる時に茶葉の内側にまでお湯が入ってこなければ、広がった体積分だけ、嘴からお湯が追い出されようとします。

では、なぜお湯が吸い戻されるのでしょうか。
お湯が引き込まれるのは、茶葉が開いて、茶葉のすきまにお湯が入り込んでいったことを示します。つまり一定のレベルまで抽出が進んだことを示唆しています。一連のお湯の変形を、中国茶道では「茶壷が呼吸する」と表現することがあります。

「何秒で淹れるか」の答えは人それぞれ

お湯が吸い戻されるまでにかかる時間は、茶葉の状態や水温によって大きく違います。20秒のこともあれば50秒のこともあります。これが1煎目の抽出の目安となります。

例えば次のように考えます。1煎目の抽出時間を、お湯が吸い戻されてから10秒後と決めます。そして2煎目は-10秒、3煎目以降は+30秒などと決めてしまいます。これを元に調整を加え、自分なりの基準を定めていくのです。

抽出の好みは人それぞれですから、自分が納得できればゴールです。ひとつのゴールに辿り着くまでは、変えていいのは時間だけです。茶器、水温、茶葉の量など他の要素はできるだけ固定します。

どうでしょう。簡単ですよね。

覚えるのは3点だけ

中国茶道には「泡茶三要素」という概念があります。美味しく淹れるには「茶葉の量・お湯の温度・抽出時間」の3点の加減が大事だということです。

上にご紹介した淹れ方のメリットは、「茶葉の量」と「お湯の温度」がバラバラでも、ベストな時間を捉えやすい点にあります。きちんとした軸が作れると、季節が変わっても、茶器が変わっても対応できます。

泡茶三要素で思い出しました。

中国茶道の実演でタイマーを使う人をよく目にします。茶道の先生でもタイマーを推奨してる人が多くいますが、私は大反対です。

理想的な抽出時間は、気温や湿度など様々な要素の影響を受けます。淹れ手がそれらの微妙な違いを感じ取って、抽出液に体現することが、客への最高の配慮だと私は考えています。タイマーとにらめっこする姿は不格好ですし、そもそも決まった時間で抽出するだけなら機械のほうが得意です。

中国茶道は、専門用語を暗記したり模範どおりに動作を覚えていくものではありません。泡茶三要素を自在に操り、お茶を美しく淹れることで客人をもてなす姿勢が中国茶道のあるべき形です。

ちなみに昔の人は、心を落ち着かせながら、ゆっくり鼻で息をする回数で抽出目安をつかんだそうです。なんとも趣深いものです。

大切な人と、心を込めて淹れた台湾茶をお愉しみください。

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